目次
② 「7ゼロ」を掲げて変わった駒場 ~従来介護からの転換
【講演】坂野悠己・・・特別養護老人ホーム 駒場苑 副施設長
以前とあるセミナーで名前とエピソードを紹介した人です。
そうですね、アルバイト先の機械浴を夜忍び込んでぶっ壊した人です(笑)
ちなみに、元は横浜の特養で働いておりそこでもオムツ外しを成功させてます。
本人曰く「ドM」だそうです。
冒頭は雑談から
坂野「僕Twitterやってて怒っていることがあるんですけど・・・〝炎上〟ってあるじゃないですか。あれって結構みんな狙ってわざと注目される発言して炎上させて、そうする事で多くの人に自分の意見を見て貰えるんですよね・・・」
※炎上:不祥事の発覚や失言などとネット上に判断されたことをきっかけに、
非難が殺到し収拾が付かなくなっている事態または状況を差す。
坂野「ずっと機械浴なんて要らないって言ってたら、ある日Twitterのダイレクトメールで苦情が来たんですよね。でもダイレクトメールだから本人同士しか内容が見れないから、結果炎上しなくって(笑)ちなみに送り主は機械浴業者です。「営業妨害だー」って来るんですよ。そっちが年寄りのADL下げたり金ばかりかかる人体洗浄の機械を作っていおいて営業妨害もないですよね~。で、何回かメールでバトルしてたら、最後は結局2文字だけ送られて来て、以来音信不通。ふざけるな!って感じですよね?ちなみにその2文字は〝死ね〟でした。」
(ここまでで15分経過~)
・7ゼロを実施する前に、職員全員に「自分が老人ホームに入ったらされたくない事」というアンケートをとった。
その結果、「オムツをされる事」と言う回答が一番多かった。
「自分がされて嫌な事は、利用者にもしない」を主軸に改革が始まる。
その後7つのゼロの改革が始まる。
◆おむつゼロ(オムツの定義:布オムツ・紙オムツ・紙パンツ)
・駒場苑では全員綿パンツ+小さめのパット
夜間のみ大き目のパット使用可。
起きていたらトイレorPトイレ。寝ていたらパット交換。
・時間としてはだいたい食後に出る事が多い。
・個別の排泄パターン表はなく、物事の前後にトイレorPトイレ介助。
・オムツの発注なし。
・下剤調整の際はPパンツ使用可。
・綿パンツは通気性が良い。 ➡ 利用者の心理的にも尊厳がある。
・ワーカーの動きが変わる。
➡意識の高いワーカー:細かくタイミングを把握。
➡意識の低いワーカー:トイレ誘導の回数が減る。
意識の低い人というのは、効率が大事な人。
しかし綿パンツ+パットだと放っておいたら漏れる。
➡尿漏れによる更衣は効率が悪い為、結果トイレ誘導せざるを得ない。
➡意識に違いがあってもトイレの回数は変わらない。
・経済面:平成22年(オムツ外し前)のオムツ代は350万円に対し、
平成27年(オムツ外し後)は250万円。
◆下剤ゼロ
・トイレorPトイレに座って排便があれば下剤なし。
・出なければ、①ヨーグルト等の整腸作用のある物を摂取
②酸化マグネシウム、マグラックスetc弱めの下剤で調整
③ラキソ、アローゼン、プルセニドetc強めの下剤で調整
④浣腸、摘便、坐薬は使用しない
ここで坂野さんの少し前にイラッとした事。
坂野「うちの施設は5階建ての3~5階が入居者スペースで、夜勤者は各フロアーに1人なんです。あるワーカーが別の階に備品を取りに行くと、その回の夜勤者に体位変換の手伝いを頼まれて手伝ったそうです。その時利用者にオムツが着いている事に気が付き、他の利用者もコッソリ見たら全員オムツをしてたそうなんです。マジでムカつきますよね!?でも手伝った夜勤者は本人にそれを言えなくて、後日僕に教えてくれたんですが、すぐに呼び出して問いただそうと思ったんですが、泳がせる事にしました。そうしたらどうやら緊急時等の為にとっておいた分のオムツが減ってるんですよね。しかもなぜかオムツの発注もされているし。なのでオムツの発注は全部止めてやりました(笑)そうしたらしばらくして〝オムツの発注は止めなくても良かったんじゃないですか〟って言ってきたんですよ。オムツ使ってますって言っているようなものですよね。」
◆機械浴ゼロ
昔:特浴2機、リフト浴1機 1日で55名入れる
脱衣場で5~6人脱いで待っている。
ベルトコンベア式に流れ作業で入っていく。
シャロームでいう一般浴の人も、空いているからと特浴で入る。
残存機能がドンドン下がる。できる事を奪う。
今:450万円で檜の個浴を3個設置(機械浴だと1台分)
大き目の檜の浴槽が1個(足が突っ張る人とかが5人ぐらい)
洗身台では突っ張っていても、浴槽内では坐位がとれる。
➡そうゆう人は普通の個浴へ移行。
毎日入浴実施。一日に6人のペースで行う。
午前 9:30~11:00
午後 14:00~17:00
お一人45分間、お好きに入れます
基本的に1対1でお迎え(衣類選び)➡脱衣➡洗身等➡着衣➡送りまでを1人のワーカーが行う。
2介助は必要時手伝う。
本人が「入りたくない」と言うなら、次の日の人と入れ替える。
※入浴介助時にありがちな事・・・
意識の高い職員:常に丁寧
意識の低い職員:事故(表皮剥離)がある
しかし個浴はマンツーマンなので誤魔化せない。
機械浴から個浴に変えてみて・・・
人力が増えるが、入れる人数が少ないから楽になった
◆誤嚥性肺炎ゼロ
昔:年間7人ぐらいいた。
食事介助は大き目のスプーン。
「大盛で早く!」という意識。
今:大スプーン禁止
これに対し職員が反発➡「食事介助が遅くなる」
坂野さんが厨房に「大スプーンはあげないで」と依頼しても、
コンビニでカレー用のスプーンを大量にもらってきて使っていた。
➡発見時にゴミ箱へポイッ。
徹底まで半年かかる。
次に問題だったのが〝立って食事介助〟をしている。
理由は「介助の人が多くて、順番に食べさせていくと丁度いいんです。」
当時は7:45から1時間ぐらいが食事時間。離床もそれに合わせて終わらせていた。
今では「7:45~9:45までに食べれば良いじゃん。何で皆で食べてるの?」
➡「10時のお茶はどうするんですか?」 ➡ 「は?誰が決めたの?」
10時のお茶、15時のおやつ等のせいで食事が急がされる。
結果としては10時のお茶をなくして、朝食をゆっくりと食べられるようになった。
◆脱水ゼロ
・好きな食べ物(出前、外食、購入したもの、日常的なお菓子や趣向品)を
食べる機会がある! コーラもOK♪ 糖尿病だろうが異常なほど摂取する機会はない! お年寄りがお茶が好きと誰が決めた!?
・駒場苑には元々ミキサー食だったが、本人が「〝チキンラーメン〟が食べたい。」と言ったため、提供した。問題なく食べるばぁちゃん。
それ以来、3食チキンラーメン(たまに夜食でもチキンラーメン)で生活す
るばぁちゃん。水分も何も飲まなかったのがチキンラーメンのスープを吸い飲みであげると飲む飲む(笑)
かれこれ一年はその食事生活で生きている。健康診断も問題なく、医者もびっくり!!医者「何かほかに食べたり飲んだりしてるでしょ~?」
職員「チキンラーメンだけです!」
その医者の推測だと「好きな物は吸収が高く、嫌いな物は吸収が悪いのかも・・・」
・坂野「皆さんはお年寄りの1日に必要な水分量いくつだと思いますか?
竹内孝仁先生という方が〝1.5~2ℓ〟って言ってるけどクソだな!そんな事言うから10時のお茶とか変な文化が生まれるんだよ~」
自分で好んで飲む人は別として、そうじゃない人にはキツイ(汗)
坂野「無理に飲ませるのは拷問じゃん」
一人ひとりの運動量によって、必要な水分量は違う。
駒場苑のナースに全利用者の個別の必要量を計算してもらい、それの平均を調べると1日に必要な水分量は800ccだった。
以来、駒場苑での摂水基準は800ccになり、現在までに脱水になった人はいない。
◆拘束ゼロ
・身体拘束ゼロ
・精神薬の服用ゼロ ➡ 何かスイッチがあるはず(不快だと思う事)
・スピーチロック(各フロアーで毎月振り返る)
・職員同士のコミュニケーション時に不安を感じないように
◆寝かせきりゼロ
・離床といっても、全員一斉に揃っているのは・・・変。
・一人ひとりのタイミングがある。
・外出の機会がある。
➡駒場苑では職員に、年に二回自由にやりたい事をやっていい日がある。(Googleの会社でも同様の事をやっている)
その一番最初の職員が「利用者の行きたいところへ連れて行く」だった。
回転寿司、東京ドームで野球観戦。野球観戦はナイターで試合が延長してしまった為、職員が坂野さんに確認したところ「次行けるか分からないから、結果が出るまで観てきなよ。」と伝える・・・
結局深夜0時に帰ホームし、利用者は次の日一日中爆睡だったそうな。
7つのゼロを取り組むのにあたり、第三者評価を利用するのもあり。
実際に坂野さんは別の施設で7ゼロができているのかの評価を行っている。
身内だと注意しにくい事も、第三者なら嫌われても問題ないのでバシバシ指摘してくれる。
やらなくてもいいことを増やす
- シーツ交換:ボランティア
- 洗い物:厨房の職員
- 洗濯・掃除:ボランティア、業者
- レク、行事:ボランティア、家族、OB、間接職デイサービスのレクに混ぜてもらっている事もあり。行事は事務所職員がやっている。お金の管理もしているし、勤務時間がだいたい皆一緒だから集まりやすい。
- 10時のお茶:誰が決めた!?
- その他:夜勤中の業務はケアと記録だけに専念。夜勤中に何かの消毒や行事の準備をしていると、コールが鳴った時に「はぁ?何で今?」とイライラしてしまう。➡これじゃあ夜勤の仕事がコール対応等のケアなのに、雑務がメインとなっていて逆じゃん。
※食事・排泄・入浴のケアをしっかりとやっていれば、他にやっている暇はないはず。
駒場苑では原則レクの時間は設けていない。
食事・排泄・入浴という〝日常〟のケアがちゃんとできていて、時間に余裕ができたらレクをしても良い。
それでも不適切な人をどうするか?
- ここまでした上で、7ゼロに反対する人。
- ご利用者に対して、失礼な言動を指導後も繰り返す人。
- 決められた事を分かっているのにしない人。
- 職員のモチベーションを下げ、悪影響を与える人。
↓
「さようなら~」
7ゼロの目的と今後の展望
- 当たり前のその人らしい生活を最期まで支える。
- 「方向性と最低限の方法論」を具体的に示したもの。
↓
〝介護〟そのもの
駒場苑の取り組みは・・・
- カリスマリーダーがいなくても
- お金がなくても
- 設備が悪くても
- 職員に意識の高低があっても
〝できる取り組み〟とのことでした。
同じ介護施設で働いていても駒場苑の取り組みはとてもすごいことだと思います。
周りに反対されても利用者の為に7ゼロに取り組んだ坂野さんは凄いと思います。