『排泄介助』とは、利用者のADL(日常生活動作)が低下してきたことにより満足に排泄することが困難になってきた場合に、安全且つ安心に排泄動作が行えるように支援する介助方法のことをいいます。

 

大きく分けて、トイレで介助する場合と、オムツで介助する場合との2つがあります。

 

排泄介助を実現させるためには、まずその利用者に関するアセスメントをあらかじめ細かく観察しておく必要があります。

 

トイレでの排泄を行う場合には、その利用者が便座で座位を保つことができるか、手すりを用いてつかまり立ちができるか、移乗時にふらつきはないか、尿取りパットへの汚染の有無、トイレの利用頻度などをまず観察します。

 

例えば、トイレでほぼ全ての排泄動作は行えますが、尿取りパットへの尿汚染が頻繁にみられるといった場合、便座に座っていただいた後に尿取りパットをチェックし、汚染がみられていた場合には交換する、といった支援も排泄介助の一つです。

 

排泄とは本来トイレで行うものであり、そのため『排泄介助』といえばトイレで施行する介助をさす場合が多いのですが、何らかの理由で『トイレでの排泄が困難であると判断された場合』、オムツで対応することがあります。

 

 

この場合の排泄介助とは、ずばり『オムツ交換』のことですが、このオムツ交換は数ある介助の中でも特に技術を要するものでもあります。

 

 

交換が1~2回程度であるならば問題はないでしょうが、それが長期間施行するとなれば、例えば介護者の腰を痛めたり、介護疲労の元となったり等、色々と改善すべき点が浮上してくるわけです。自分の身体を守るためにも、きちんとしたオムツ交換の技術は会得したいものです。

 

 

そこで今回では、排泄介助でもこの『オムツ介助』について、前編・後編の2つに分けて書いていきたいと思います。前編では『オムツに排泄するという行為』について、後編では『負担のないオムツ交換』について、それぞれをテーマにしていきます。

 

 

オムツに排泄するという行為は、実は非常に難しい

オムツ交換についてご紹介する前に、一つ考えていただきたいことがあります。それは、『オムツに排泄するという行為は、実は非常に難しいものである』ということ。これは、自分で実際にオムツを装着して実証してみた方が話は早いと思います。日中や夜間など、一度オムツを装着して過ごしてみてください。もちろん、排泄はオムツにすることとします。トイレ使用は厳禁です。

 

すると、あなたはこう感じるはずです。『おしっこが出てこない』と。

 

実は、トイレで排泄するということが習慣になっている人がオムツに排泄しようとすると、『おしっこが出てこない』という現象が起こります。

 

身体がそれを無意識的に拒絶しているからなのか、頭ではそうしようと思っていても、排泄するという行為に至るまで非常に長い時間を要します。

 

そこが『便器』であれば「おしっこしよう」と思ったと同時に用を足すことができますが、『尿取りパット』であった場合、実際におしっこが出るまでに数十分も掛かってしまうのです。これが、オムツに排泄するということに対しての通常の反応です。

 

 

なので、施設介助においてオムツをしている利用者からコールがあり、訪室してみると「トイレに行きたい」と言われ、それに対して介護職員が「オムツをしているので、それにしてください」と答えるとします。

 

これはどこの施設でもよく見られる光景ですが、この時私たちは利用者に対して非常に難しい課題を常に要求している、ということも自覚しておくべきでしょう。

 

 

オムツ対応の利用者ってどういう方なの?


 

『オムツをしている利用者』と言われたら、あなたはどんな人をイメージするでしょう。寝たきりなど、全介助レベルの方でしょうか。

 

はたまた、重度の認知症の方でしょうか。もちろん、そういった理由でADLに著しい低下がみられる場合にはオムツ対応となることが多くなるでしょうが、オムツをする理由というのは実はこれだけではありません。

 

認知症もなく、寝たきりでもない方でもオムツをしている場合があるのです。

 

では、オムツ介助でなければならない利用者とは、一体どういう方々なのでしょうか。

 

それは冒頭からの繰り返しになってしまいますが、ずばり『トイレで排泄することが困難である利用者』の方々です。

 

トイレで排泄することが難しいとは、具体的にどういった状況なのでしょうか。

 

例えば、トイレの便座に座ったのはいいものの、手すりにつかまっていないとすぐに前かがみになってしまい、更に一端姿勢が崩れたら元に戻せないといった場合、排泄動作には常に便座からの転落リスクがつきまといます(座位保持不可のため)。

 

介護の現場では、転落は事故扱いとなり、利用者本人にとっても危険であることから、利用者や家族の同意が得られた場合、オムツ対応によってこのようなリスクを回避しているわけです。

 

 

また、トイレまで誘導したのはいいものの、「手すりにつかまって立ちましょう」と声かけしても笑っているだけで指示が全く入らない。

 

それならばと介護者が全介助で便座へ移乗させようと思うも、指示が入らない体重50kg代の利用者はまるで岩のように重く、そのため便座への移乗介助中に誤って転倒させてしまうリスクも常に頭の片隅に置いておかなければいけません(移乗困難のため)。

 

 

利用者によっては、自分の意思でトイレへ行こうとする頻度が極端に減少している方もいます。見守りしていると一日中テレビを視ているだけで、声かけをしなければ日中トイレに全く行かないといった方もいます。且つ、尿量が非常に多いといった場合、失禁させてしまうリスクもあります(尿意・便意の有無不明のため)。

 

施設などでは、医師の指示により尿導口へバルーンカテーテルを挿入している方々がいます。例えば、自力で排尿することができない方や、尿からMRSAや緑濃菌などの感染源が確認された方、一日の尿量を計測する必要のある方などは、バルーンカテーテルの留置対応になっている場合があり、こういった方々はオムツ対応となっていることがあります(医療的管理のため)。

 

 

嚥下機能が低下し、経口摂取が困難となってきた場合には、医師の提案により経鼻管栄養や胃ろう(以下、経管栄養)になっている利用者もいます。

 

経管栄養者は食事を取る際、通常の咀嚼とは違い、エンシュアリキッド等の高栄養流動食といわれるものを医療・介護者の管理下の元、決まった時間帯に管や胃ろう部から直接流してもらい、長い時間をかけてゆっくりと摂取します。

 

一日に摂取する流動食の量は医師の指示によって決められており、例えば400-0-400とカルテに表記されていれば、朝と夕の決まった時間帯にそれぞれ400mlの流動食を摂取する、という意味になります。

 

流動食を流している時間帯は安静を強いられるため、摂取中は基本的に椅子に座っているなどし、大きな身動きは取れません。

 

よって、摂取中に便意や尿意を催してもトイレに立つことは難しくなる為、経管栄養者はオムツ対応となっている場合が多いです(流動食摂取のため)。

 

利用者の排便状態もチェックしておく必要があります。

 

 

若い頃は腸の蠕動運動が活発であるため、比較的排便のリズムは一定であり(例えば、朝家を出る前に必ず便意が発生するといったもの)、且つ自分の力で排便することができるのですが、高齢になってくると蠕動運動が鈍化し、宿便ぎみになるため、下剤を服用する機会が非常に増えてきます。

 

 

下剤の服用によっての排便コントロールなので、排便のリズムは『自分の感覚』ではなく、『下剤が効いたタイミング』に全て委ねられることになります。

 

 

故に、例えば会食中に急にトイレへ行きたくなったり、車での移動中に我慢ができなくなったり等の状況も想定されるわけです。

 

 

近くにトイレがあり、自分ですぐに行ける人であるならば問題はないでしょうが、例えば動きが非常に緩慢でトイレへ向かっている途中に漏れてしまったり、車椅子を自分で操作できない方であったり、便が極端に緩い方であった場合などでは、布パンツでの対応だと現実的に非常に厳しいものがあります。

 

 

更に、衣服の便汚染も頻繁に見られるとなれば、本人の自尊心もあり、他の利用者からの視線なども考慮してあげなければなりません。

 

 

「あの人、いつも漏らしている」─そう思われるというのは実際非常に辛いことなので、そういった配慮からあえてオムツで対応している場合もあります(不測の便意に対する対応策のため)。

 

 

睡眠導入薬を服用している場合も注意が必要です。日中はトイレにて排泄される方で、夜寝る前に睡眠薬を処方されている場合、どんなリスクが考えられるでしょうか。

 

 

こう尋ねられると、真っ先にまず頭に浮かんでくるのは『ふらつきによる転倒』です。

 

 

睡眠薬服用後は常に眠気が襲ってくるという状態がメインとなっているため、例えばトイレでの排泄をする際、つかまり立ちでズボンの上げ下げ介助が必要である利用者の場合、介助をしている最中にふらつきが生じ、転倒するリスクがあります。

 

 

また、便器での排泄中に眠ってしまい、前かがみになっていたり等、日中と比べてヒヤリとする場面も多くなります。

 

睡眠薬は人によって作用が大きく異なり、分量が多かったりすると効きすぎてしまい、だんだんと朝起きれなくなってきたりすることがあります。

 

 

こういった場合は常に医師や看護師に報告し、都度薬の分量を調整することによって薬の負担を軽減するのですが、このようなことも想定されるため、睡眠薬を服用した利用者をトイレ誘導する際は特に気をつける必要があります。

 

 

更に夜間では職員の人員も限られており、状況によってはすぐに対応することができないといった場面も想定しなければならないため、利用者や家族の同意を得た上で、転倒・転落のリスクを回避するために夜間のみオムツ対応となっていることがあります(睡眠薬服用のため)。

 

 

単純に『オムツの利用者』と言われればベッド上で全介助を要する方を連想すると思うのですが、実は上に挙げたようにオムツ対応となる理由は様々存在します。

 

 

利用者を転倒・転落などのリスクから守るためや、咀嚼嚥下機能低下による流動食摂取によるもの、自排尿を促すため、尿意・便意が不明である、不測の便意に対する対応策、睡眠薬効果による転倒リスク回避のためなど、個々にきちんとした理由があります。

 

 

また、「夜はぐっすり寝たいから、オムツにしてください」と、利用者から直接希望してくるためにオムツ対応となっていることもあります。特別な理由が無くとも、このように利用者から個人的に希望があった際には、その意思を尊重することもあります(利用者の意思尊重のため)。

 

 

前編では、オムツに排泄するというのはどういうことなのか。

 

 

実際にオムツを利用している方々はどういう感じであるのか。以上の内容について整理してみました。

 

 

介護というものは、必ず『理由』と『結果』が表裏一体と成して存在しています。

 

 

オムツをしているからには、そこには何らしかの理由が必ず存在しています。

 

 

どんな些細なことにでも「何故そうなのか?」と常に意識を持つようにすると、いろんな発見が見えてきます。

 

これらの内容を踏まえた上で、次回の後編では『負担のないオムツ交換』について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

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