「休みの日は一日中家で寝ている」、「体力が続かない」、「この前から腰に違和感がある」─介護の仕事をしている方であれば、一度はこのような話題を誰かとしたことがあるかと思います。

『介護の仕事をするならば、ぎっくり腰は覚悟しておかなければならない』とよく言いますが、施設で働く介護職員の場合、このように腰や身体に何らかの異常を覚えた経験をした者は、1ユニットに必ず数名はいるといわれています。

よって、介護業務を回していく場合、例えば『ぎっくり腰による早退や長期欠勤』というのはあらかじめ想定しておくべきリスクであり、身体異常を発した者を責めるべきではありません。

天気予報には、『降水確率』というものがあります。それはつまり、もし外に出るのであれば雨に降られる確率はどのくらいか─つまり、『リスクのパーセンテージ』を示しています。降水確率が毎日0%という一週間がないのと同じように、『介護業務のリスク』というのは、この降水確率と同様の性質があることをまず認識しておくべきでしょう。

とはいえ、身体異常や体力の消耗などは、なるべく避けたいものです。

そこで、今回は普段の介護業務でどのような点を意識すれば、身体異常や体力の消耗を防ぐことができるのかを考えていきます。その方法はいくつかあるのですが、今回は題名にもある『脚』に焦点を当てていきたいと思います。

介護負担軽減のキーワード 『脚』

小見出しのキーワードにもあります『脚』についてですが、これは介護者の『脚』をさしています。つまり、どのようにこの『脚』を使って介護業務をするのかということを考えるわけです。

普段の介護業務を思い起こしてみてください。

移乗介助、トイレ介助など、どのような介助をしているでしょうか。もしその介助方法をいている時に、例えば「力無いから辛いんだよな」や、「ちょっと事故起こしそうでヒヤリとした」、「最近、腰が痛いと感じてきた」などと思うことが多くなってきているのであれば、もしかしたらこれからご紹介する方法がお役に立てるかもしれません。

介護は時として力仕事になる場合がありますが、力とは本来瞬発的に発生させるものなので、ただ力任せに行うと腰などにその負担が集まってきやすくなります。

その負担を分散させる方法の一つが、この『脚』なのであります。以下より、介護負担軽減方法と称し、その『脚』の具体的な利用方法を二つほど述べていきます。

介護負担軽減方法その1 : 介助中は常にどちらかの脚に8割程度の重心を置く

ベッド上でオムツ交換を行う際、あなたはどのように行っているでしょうか。しっかりと『両足で立って』パッド交換や清拭を行っているでしょうか。特に負担を感じていないのであればよいのですが、実はこの時『ほぼ片足状態』でオムツ交換をやった方が、圧倒的に腰の負担が軽減できます。その理由は、体幹バランスが関係しています。

床の上に二本足で20秒~30秒程度、立ってみてください。気をつけや休めなど、姿勢は問いません。それが終わったら、今度は片足で20秒~30秒程度、床の上に立ってみてください。目を瞑ったり、手を広げてバランスを取ったりしても構いません。

さて、それではお聞きします。どちらの立ち方が、無意識的に背筋が伸びていたでしょうか。二本足で立った場合、重心は左右の脚それぞれ5050で分散されます。

片方の足が支える重量は体重の半分程度でよいため、疲労感がなく、ラクな姿勢で立つことが可能となります。

つまり、『キチンとした姿勢を保つためには、それなりに意識しなければならない』ということです。

一方、片足立ちの方はどうでしょうか。

片足で立っているため、直立している脚は全ての体重を支えなければなりません。

それができなければ倒れてしまうので、長時間強いられれば脚の疲労は増しますが、必至でバランスを保とうと半ば本能的に姿勢を整えます。

つまり、片足立ちの場合『ほぼ無意識下で、キチンとした姿勢を作り出すことができる』ということです。

キチンとした姿勢とは、つまり『腰に対して負担がない』姿勢を意味します。

学校などではよく、ベッド上でオムツ交換をする際、腰の負担を軽減させる方法の一つとして、『ベッドの高さを介護者の腰の位置に合わせる』ことを提案しています。

このやり方は確かで、腰を痛めるリスクも少ないのですが、いかんせん現場での業務となると1020人のオムツ交換を要求される場合もあり、その都度ベッドの高さを合わせてまた戻すという作業をするのならば、介護者に対しては非常に余裕のある時間を与える必要があります。

しかし現実にはその間、他利用者のコール対応もしなければならない等もあり、この方法一つのみでは実用性に欠けるものがあります。

そこで提案したいのが、『介助中はどちらかの脚に8割程度の重心を置く』というものです。これは少しオーバーに言うと、『ほぼ片足立ちでオムツ交換をする』ということです。

二本足で立ってのオムツ交換の場合、ある程度の姿勢でもバランスが取れてしまう為、裏を返すと腰に負担が掛かる姿勢でオムツ交換もできてしまいます。

対して、片足立ちでのオムツ交換の場合、先にご紹介したその体幹バランスの関係より、腰に負担が掛かる姿勢でのオムツ交換は不可能となります。

そうなる前に自分が転びそうになってしまうからです。二本足、あるいは片足の姿勢を保ったまま、前かがみになってみてください。

どちらの方が、感覚的に腰に負担を感じないでしょうか。オムツ交換の際に前かがみになる理想の姿勢は、『片足立ちで楽と感じる前かがみ』です。重心の掛かっていない方の脚は、床に添えるだけといった感じでしょうか。

この方法は、比較的どのようなベッドの高さにも応用ができます。機会がありましたら、一度意識して行ってみてください。

介護負担軽減方法その2 : トイレ介助中は介助者の脚を『椅子代わり』にする

在宅や施設では、トイレ介助があります。車椅子でトイレに入り、車椅子から立ち、その姿勢を維持したまま自分でズボンを脱ぎ、便座に座る。

この一連の動作で不安な箇所が見受けられた場合、その箇所のみ介助を行うというのが、トイレ介助です。例えば、立つことはできるが、何かに掴まっていないと立つ姿勢を維持することができない人は、立ってから自分でズボンを下げることができません。その為、利用者にバーに捕まって立っていただき、介護者がズボンを上げ下げ介助します。

このズボンの上げ下げ介助に焦点を当てて考えてみた場合、利用者がしっかり立てる人であるなら良いのですが、中にはふらつきがある方がいます。

あるいは、掴まって立つことはできるが、長時間維持させることができず、すぐ腰が落ちてしまうといった方もいます。麻痺のある方の場合、基本的に麻痺側に傾いてしまう傾向があるため、ズボン上げ下げをしている最中、介護者側から離れていくように転倒してしまうといったリスクもあります。これら全てに関係している根本的な原因─それは、『掴まって立つことはできるが、立位は維持できない』ということです。よって、利用者が立位を維持できるように介護者が介助をすることができれば、この問題は解決します。

では、どのような介助をすればよいのでしょうか。そこで提案したい介助方法が、『介助者の脚を椅子代わりにする』というものです。

学生の頃、体育の授業や部活前などでよく運動前にアキレス腱を整える準備運動をしたことがあるかと思います。

どちらかの脚を後方へ置き、前傾姿勢を作ってアキレス腱を伸ばすといったもので、皆さんも馴染みがあると思いますが、『介助者の脚を椅子代わりにする』介助では、この時の下半身の姿勢を意識します。

では、どの部分を椅子代わりにするのかですが、アキレス腱を伸ばしていない方の脚の大腿部が、ちょうど利用者にとっての座面となるイメージであり、介護者の胸の部分が椅子の背もたれに当たります。

掴まり立ちがどこか不安定な利用者である場合は、まず介護者の大腿部に利用者の臀部を寄りかからせると利用者の姿勢が安定するため、その間にズボンの上げ下げを行います。オムツを装着させる場合も原理は同じで、まずオムツを利用者の股下へ通し、利用者の背骨とオムツのセンターラインを合わせてから、利用者を介護者の大腿部へ腰を下ろさせます。その間、マジックバンドをくっ付けたり、ズボンの上げ下げ等を行うわけです。

「私の足に腰掛けてもいいですよ」等と声かけしてみるのもよいかもしれません。

注意点は二つ。

一つ目は、掴まり立ちができるといっても、利用者の握力が限界となり、バーを手放して転んでしまうリスクがないとも言い切れません。そのため、ズボンを上げ下げする場合は、その転ぶと思われるだろう延長線上に、必ず便座か車椅子など、何らかのきちんとした座面を持ってくるようにします。

二つ目は、ここでご紹介した介助方法は、『きちんと掴まり立ちができない利用者の方々』を対象としたものです。ということは、ズボンの着脱が終わったとしても、利用者がスムーズに便座や車椅子へ座れるとは限りません。座ろうとして失敗し、床へ転倒させてしまうこともあるかもしれません。ズボンを履かせた後も腰の部分に手を当ててサポートをするなど、利用者が無事に座るのを見届けるまでは気を緩めないようにしましょう。

介助とは、学校やセミナーなどで勉強する基本的なやり方を遵守していれば、まず事故を起こすことは回避できます。

そのため、基本に勝るものはないのですが、考えていただきたいことは果たしてその基本が『自分のやり方に合っているのか』という点です。「こういう風に教わったけど、自分的にはこの方がやり易い」─今回では、その一例として脚の使い方をご紹介しました。同じ介助でも、やり方一つで負担の度合いがまったく変わってしまう場合もあります。今後も、そのようなやり方を一緒に考え、発信していきましょう。

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