『排泄介助』とは、利用者のADL(日常生活動作)が低下してきたことにより満足に排泄することが困難になってきた場合に、安全且つ安心に排泄動作が行えるように支援する介助方法のことをいいます。
大きく分けて、トイレで介助する場合と、オムツで介助する場合との2つがあります。
前回の『オムツ介助について考える~前編~』では、オムツに排泄する時の感覚や、オムツを利用するというのはどういうことなのかについて書いていきました。
人は長い経験の中、トイレで排泄するという行為が習慣となっているため、オムツに排泄を求められても「おしっこが出ない」という現象にまず遭遇します。
また、便座で座位を保つことができない方や、経管栄養者、排便のコントロールが上手くできない方など、オムツを利用する理由も一人ひとり違い、単に『全介助や寝たきり』だけがその理由ではなく、介護者はオムツという存在に対してそういった先入観をまず払拭する必要があります。
更に言うならば、いま現在健康体であり重篤な病歴などがない私たちでも、例えば3日後、突然脳梗塞を発症し、緊急搬送され、治療の末片麻痺にならないという保障は、どこにもないわけです。
そうなった場合、あなたは『オムツを利用することになる』可能性があります。要は、今は「普通、トイレで排泄するでしょ!?」でも、現代介護の排泄介助に今後大々的な変革が訪れない限り、私たちは将来確実にこの『オムツ』のお世話になります。その現実を、今からしっかり認識しておくべきなのです。
『認識しておくべき』と述べた理由は、このような認識を持つことにより、共感性のあるオムツ介助が施行できるようになるためです。
「この人がもし自分だったなら、私がやったこのオムツ交換をどう感じるのだろうか」─オムツ交換を施行する際は、常にそういう意識を持つ必要があります。
自分が「嫌だ」と感じるオムツ交換は、利用者には絶対にしない─という意味での共感です。
その重要性を訴えたかったために、『オムツ介助について考える~前編~』では、まずオムツを利用する目的を取り上げました。
これらを踏まえ、後編では『オムツ交換のやり方』について考えていきましょう。
オムツ交換は、『誰でも』できます。但し・・・。
巷では、「オムツ交換なんて、超カンタンでしょ?」という声を耳にします。「こんなの何回かやれば慣れるでしょ。余裕余裕!」という楽観的見解です。
この世間の感想に対しては、むしろ肯定的に捉えるべきでしょう。
理由は、「オムツ交換とは、誰しもが『余裕』と感じるものでなければならない」からです。
慣れるまで3ヶ月~半年も掛かるほどのスキルを求められるようならば、在宅介護など普及するわけがありません。
施設介護でも、業務を回していくのは非常に難しくなるでしょう。
もう一度言います。オムツ交換というのは、誰でもできる簡単な作業です。
シンプルで同じ事を単純に繰り返していくだけなので、実務経験も特別なスキルも不要です。
介護福祉士や介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)など福祉関連の資格もありますが、そのような資格を取るための勉強から入らずとも、オムツ交換という“一連の作業”は楽勝でできるようになります。
難しいことは、何一つありません。
“一連の作業”に関しては。
「オムツ交換なんて余裕でしょ!?」と言う方もいれば、「オムツ交換って大変だよね」と言う方もいます。
両者同じことを施行しているはずなのに、何故このように意見が割れるのでしょうか。単純にオムツ交換という“一連の作業”に対しての感想なのかもしれませんが、後者の意見はそれ以外にオムツ交換をする上での“周囲の環境認識”も反映しているように感じます。
そう、オムツ交換は“一連の作業”に関しては誰でもできるのですが、この“周囲の環境認識”ができるかどうかについては、その人のスキルや経験年数によって、はっきり明暗が分かれてきます。
例えば、利用者がオムツに排便をし、それを単純に交換するといった場面を考えます。排便されたオムツを交換するという“一連の作業”は誰でもできますが、介護者によっては部屋中に強い便臭を充満させながら施行する者もいれば、ほとんど便臭を漂わせずにオムツ交換を終える者もいます。
弄便というBPSDがみられる利用者について考えてみましょう。食事などで離床し、食事を終えて歯を磨いた後、ベッドへ臥床介助をします。
この時、瞬時に『利用者が排便をしていることに気がつけるか』です。
いつも全量摂取しているのに、今日は摂取状況が悪い。普段はじっとしているが、今日はやたら介護者へ何かを訴えている。
臥床介助の後、何処かから便臭がする。このような変化を見逃さず、『排便をしているかもしれない』という推測に直結させられるか、です。
この時、即座にオムツ交換を施行すれば、弄便を防ぐことができるでしょう。
変化に気がつかずにオムツ交換をしなかった場合、利用者が弄便をしてしまい、服を汚染させてしまう事態も発生させる可能性があります。
この辺りは、介護者が“周囲の環境認識”ができているかによって、結果が変わってくる場面でもあります。
おしっこの量が多めの利用者のオムツ交換をする場合はどうでしょうか。
日中や夜間など、オムツ交換をする際、普段はだいたい尿取りパッドがずっしりと重くなるほどの排尿がみられているにもかかわらず、ある日の交換では尿量が少なく感じる。
人は通常一日に1,200~1,500ml程度排尿するといわれていますが、食事量から考えても明らかに排尿量が少なく、それが数日経過してもみられている。
または、排尿はあるものの、異臭が感じられたり、普段と比べておしっこの色が濃いように感じたりなど。
この時、尿量が少ない場合、「身体の浮腫みが出てきていないか」、「腎臓系に異常がみられているのではないか」など。
尿臭や濃縮尿が強く感じられた場合、「尿路感染ではないか」、「排尿痛などは無いか」、「脱水症状を起こしているのではないか」など。
単純にオムツ交換を施行するだけでなく、このような身体的異常を連想することができるかどうかも、“周囲の環境認識”を持ち合わせているかどうかに委ねられます。
オムツ交換自体は、至極カンタンなものです。
しかし、そこで終えるのではなく、加えてこのような“周囲の環境認識”もできるようになれば、非常に質の高いオムツ交換を施行できるようになれます。
排尿や排便の状態とは、『体調不良であるかどうかを判断するバロメーター』の意味も持ち合わせている、ということも加えて明記しておきます。
ラクなオムツ交換について考える~排尿編~
では、ここからは実際にオムツ交換をしている場面を想像しながら、どのようにすれば『ラクなオムツ交換』ができるかについて考えていきましょう。
まずは、排尿されたパッド交換からいきます。なお、この場合のオムツ交換とは、『ベッド上で行う』ということを条件とします。
まず、臥床している利用者のズボンの脱介助です。
これは力づくで脱がせるのではなく、『左右順番に脱がせていく』やり方を行うと、ストレスなく脱介助ができます。
利用者の両膝を折り曲げ、その膝を手前に引くようにすると、利用者の体躯が介護者側に向いて側臥位ぎみになります。
すると、利用者のズボンの、片方の腸骨側が上を向くので、そちらの方から脱介助し、仰臥位へ戻した後は仙骨部に手を入れ込み、利用者のお尻とベッドとの間に隙間を作ってからもう片方のズボンを脱介助します。
以上が全介助の方に対する介助方法です。協働動作ができる利用者の方であれば、「お尻を上げてください」と声かけをして協力していただくとよいでしょう。
ズボンの脱介助が終わったら、いよいよオムツ交換です。
オムツはマジックバンドで固定されているのですが、この部分はただ外すだけではなく、マジックテープを折り返してから始めるのがワンポイントアドバイス。
マジックテープはくっつき性が抜群であるため、例えばオムツ交換中に衣服や下着、タオルケット等にくっついてしまい、作業の円滑性を損なってしまうからです。
マジックテープを外したら、排尿をされていることを確認し、声かけしながら利用者を側臥位介助します。
パッドを新しいものに交換した後、臀部を清拭するのですが、この時どの部分を清拭するのがよいでしょうか。
まず考える部分は、仙骨部周辺でしょう。
理由は、排尿されたパッドに密着していた時間が一番長いと予想される箇所であるためです。
この部分は尿によって皮膚がかぶれたり、発赤を起こしたりしやすい箇所でもあるため、オムツ交換時は清潔にしてあげましょう。
次に考える部分は、鼠経部です。
その理由は、オムツ装着時のムレによって発生する不快な発汗が一番集中しやすい箇所であると思われるためです。
仙骨部同様、皮膚異常がないかを観察する目的も兼ねて清拭します。
尿量が非常に多い場合は、臀部周辺も念入りに清拭しましょう。
尿取りパッドに排尿されたおしっこが吸収されていく順序としては、まずパッド中央部全体に集まり、その箇所のみで吸収しきれないほどのおしっこが排尿された場合、周囲へ広がっていきながら吸収される、といった段階を踏みます。
正しくセットされた尿取りパッドでは、排尿跡はパッド中央部に集まっていることが多く、なるべく皮膚に排尿跡が触れないように設計されているのですが、尿量が多い場合は臀部周辺にも触れることになるため、その部分も清拭しておくと丁寧なやり方であるといえるでしょう。
体位交換の介助を行う必要のある利用者では、身体が向いている方向によって排尿跡がずれることがあります。
この場合は、排尿跡に肌が触れていると思われる箇所を清拭しましょう。
また、清拭中は利用者に側臥位の体勢を維持していただく必要があります。
柵につかまったり、しっかりと側臥位の体勢が維持できる利用者であれば問題ありませんが、介護者が押さえない限りすぐに仰臥位に戻ってしまうといった場合、どうしたら良いのでしょうか。
利用者の身体を押さえながらオムツ交換というのも、なかなか大変なことです。
そこで提案したいのが、利用者の背後にクッションや枕を当てがう、という方法。これにより利用者の身体が倒れてくるのを防ぐことができるので、ラクにオムツ交換ができるようになります。
側臥位になっている人間が仰臥位へ倒れてくる際、通常はまず『おしり』の部分から先に地に着きます。
そのため、クッションを当てる箇所は『おしりに近い側』を選択するのがベストです。
パッドを新しいのに交換した後は、再びオムツを装着します。
この時、注意点は2つ。一つは、『オムツのセンターラインをへそ下に合わせる』ということ。
もう一つは、『装着後のオムツ内には、拳一個分程度の隙間を作る』ということ。
オムツにはどのメーカーにも必ず中央部にラインがあります。そのラインがへそ下よりずれた状態で装着していると、単純に尿が漏れてしまうことがあります。
また、位置がずれた状態でオムツを装着していると、片方が緩く、もう片方がキツイという装着になります。
片麻痺があり決まった箇所から尿漏れが発生しやすい等、何らかの事情がない限りは、センターラインはなるべく中央に合わせて装着しましょう。
拳一個分の隙間をあける必要性については、次項の『ラクなオムツ交換について考える~排便編~』にて詳しく説明いたします。
ラクなオムツ交換をテーマに、排尿について書いてみました。
オムツ交換時に負担と感じる要因としては
1)利用者の身体が、オムツ交換施行中に常に倒れてくる為、体力を使う。
2)利用者の身体が重く、なかなか側臥位にすることができない。
3)オムツの当て方がよく分からない。
4)ズボンの着脱介助がなかなか上手くできない─などが考えられます。
上に挙げた内容を試してみることで、もしかしたら負担軽減のきっかけになるかもしれません。
ちなみに、『2)利用者の身体が重く、なかなか側臥位にすることができない』についてですが、この問題を解決させる一つの方法として、『手の力ではなく、肩の力を用いて利用者を側臥位にする』というものがあります。
側臥位介助を行う際、通常は手のひらを用いて行っていると思うのですが、この場合は『二の腕の力』を利用しているため、体重のある利用者である場合は少し大変であると思います。
なので、どうしても難しいと感じる場合は、側臥位介助をする際、手のひらだけではなく、腕も利用者の身体へ密着させるようにして押してみてください。
腕も用いることによって発生する力は『二の腕』ではなく、『肩』によるものになります。
重いテーブルの片方を片手で持ち上げようとする際、手のひらだけで上げるのと、腕も用いて上げるのとでは、どちらが「軽い」と感じるでしょうか。
一度、試してみてください。
ラクなオムツ交換について考える~排便編~
排尿についてみてきましたが、今度は排便について考えてみましょう。
ズボンの着脱介助や側臥位介助、臀部を清拭する箇所など、基本的には同じ過程で行うのですが、排便の場合はそれ以外に注意する点が更に2つほどあります。
それは、『衣類やシーツ等を便汚染させないように注意しなければならない』ということ。
もう一つは、『装着後のオムツ内に、拳一個分程度の隙間を作らなければならない』ということです。
排便のオムツ交換では、交換している最中に利用者の衣類やベッドのシーツへうっかり便汚れをつけてしまうことがあります。
これは多少やり方を工夫しなければ不測的に発生するものなので、排尿のオムツ交換よりも特に意識して行う必要があります。
では、どのように工夫すればよいのでしょうか。
まず一つは、『装着しているオムツを使って、排泄された便をまず全て拭き取ってしまう』ことを考えます。
人はトイレで用を足した後にトイレットペーパーを使いますが、その要領で利用者を側臥位介助する前に、装着されているオムツをトイレットペーパーに見立てて便を包むように拭き取ってしまいます。
便を包んでしまったらマジックバンドで止め、完全に密封した状態でオムツを破棄します。密封してしまうのは、感染予防も考慮するためです。
これにより、排泄された便の全てをまず片づけてしまい、後は臀部に付着している便汚れを清拭する、という要領で行います。
この『オムツ包み作戦』でも便汚れが残りやすい個所としては仙骨部周辺が特に目立つので、丁寧に清拭をしましょう。
次に工夫すべき点としては、『介護者の手に便汚れが付着していないかを常に観察しながらオムツ交換を施行する』ということです。
不測の便汚染伝播の原因は、オムツ交換をする際、介護者自身が自分の手に便が付着していることに“気がついていない”ということがほとんどです。
そのため、『オムツ包み作戦』を施行した後、利用者の臀部を清拭する前には、便が付着しているしていないに関わらず、必ず自分の手を念入りに拭いてから行うようにしてください。
指の間や手の甲など、案外自分の気がついていない部分にうっすらと便汚れが付着しています。
これを徹底することで、不測な便汚染を防止することができます。
それ以外の工夫として、利用者のズボンとシャツはなるべくオムツから遠ざける。オムツ交換を施行する前に下に新聞紙を敷く、なども有効でしょう。
また、排便後に再度オムツを装着する際は、オムツ内に拳一個分程度のスペースを作ることを意識します。
尿の場合は液体であるため吸収されて終わりなのですが、便の場合は個体であるため、排便された際にそれを確保できるスペースがないと隙間から漏れ出してしまいます。
更に言えば、先にご紹介した『オムツ包み作戦』を実践する場合は、ある程度パッド内に便汚れが無い箇所があるということも想定しています。
スペースの無いオムツに排泄した場合、パッド全体に便が広がってしまいます。そのため、『オムツ包み作戦』できれいに拭き取ることができず、オムツ交換に手間取ってしまいます。
衣類には『被服気候』というものがあります。
これは皮膚と着ている衣類との間にできる隙間の環境のことをいうのですが、この環境内の湿度が40%~60%以内に収まっている場合、人は「快適である」と感じるのだそうです。
ですが、オムツメーカーのデータによると、オムツを装着して数時間経過した後に達するオムツ内の湿度というのは、実に80%以上になることもあるのだそうです。
故に、オムツ内にスペースが全くない場合ですと、湿度的に利用者へ余計に不快な思いをさせてしまうことにもなりかねないため、そういった気配りの面でもスペースを作ってあげるようにしましょう。
オムツ介助について、前編・後編に分けてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。
ここで述べた以外にも、実用的な工夫というものはたくさん存在します。介護とは、『技術開発』です。
どうしたらもっと身体に負担のない介護ができるのか。どうしたら利用者に対して低リスクな介助を提供できるのか。
利用者の病状やADLなどによって、それらは幾通りも考え出すことができます。皆さんもぜひ、技術開発をしてみてください。