臥床している利用者のベッド上での移動介助は、上方移動介助や、側臥位介助などがあります。これらの介助について介護者が特に留意すべき点は、『ぎっくり腰になりやすい』ということです。
食事介助や更衣介助、排泄介助などと違い、このベッド上での移動介助の特徴は『静止している状態からいきなり動作をする』という介助でして、特に上方移動介助をした後にぎっくり腰になる人がたくさんいます。
「介護の仕事をするのなら、ぎっくり腰には気をつけなければならない」と講師の方もおっしゃるのですが、ぎっくり腰になる大半が、このベッド上での移動介助が関係しています。
ぎっくり腰にならないためにも、ベッド上でラクな移動介助をするにはどうしたらよいか、一緒に考えていきましょう。
上方移動は、腰の位置さえ気をつければよい
上方移動とは、ベッド上に臥床している利用者を頭側へ水平に移動させる介助のことです。ベッドの頭側をギャッヂアップしたり、利用者がベッド上で動いたりすると、利用者の身体全体が下に下がってしまいます。
この時、動ける利用者なら自分で寝る位置を調整できるでしょうが、寝たきりの利用者の場合はそれができないため、介護者が介助で位置を調整してあげる必要があります。この介助をしたことが原因でぎっくり腰になる介護者がとても多いです。
では、どのような介助をしたら良いでしょうか。
一つの方法として、介助をする前に『介護者の腰の位置を初めに決めてしまう』というのがあります。
上方移動介助では、まず利用者のわきの下と仙骨部に手を入れ、その状態を維持したまま水平に利用者を動かすわけですが、この時介護者の腰も利用者と一緒に動かしてしまうと、腰に動力が掛かるため負担が生じます。
なので、『介護者の腰の位置は、移動しようとする地点にあらかじめ固定しておく』のがベストです。要は、常に腰を動かさないように意識すればよいのです。
ベッド上で位置がずれている利用者を、枕元まで上方移動する場面を考えましょう。利用者のわきの下と仙骨部に手を入れます。
この時、介護者は腰の位置をあらかじめベッド上の枕元まで持ってきてしまいます。利用者のわきの下に手を入れている腕の前に、ちょうど介護者の腰があるイメージです。
その状態で、腕だけを動かして上方移動すると、腰に負担がかからず比較的ラクに介助することができます。
ここで、2つほどアドバイス。
実は、人は物を動かしたり力を入れて何かをしようとする時、『自分の胴体に対象物を近づける』行為を無意識的に行っています。
なかなか開かないビンの蓋を開けようとするとき、自分の身体にビンを近づけて開けようとしますよね。
重いものが入っている袋を持って歩くとき、ただぶら下げて持つより、肩に引っ掛けて持ったほうが『重く感じない』はずです。
上方移動介助をするときも同じで、『自分の胴体に利用者を近づけると』ラクに動かすことができます。
もう一つのアドバイスは、ベッド上の利用者はパジャマなどを着ているため、シーツの摩擦によって動かしづらくなります。
そのため、介助する際、余計に力が入ってしまいます。これを解消する方法として、『シーツ上の基底面積を小さくする』というのがあります。
難しく書きましたが、要はベッド上のシーツに触れている部分をお尻だけにするとよいのです。イメージとしては、利用者の脇の下に入れている腕の方では、『利用者の身体をベッド上の真上へ動かす』ようにし、仙骨部の腕の方で『利用者の身体を枕元へ押す』ように、それぞれ腕を動かします。
これを瞬間的に同時に行うと、腰にも負担がかからず、ラクに介助することができます。両方の腕を横へ同じように動かすのではなく、このような違う動きを瞬時に行うことにより、ぎっくり腰になるリスクを軽減させることができるでしょう。
側臥位にする時は、利用者の『お尻の位置』を配慮すべし
側臥位介助とは、ベッド上に臥床している利用者を横に向かせる介助のことです。
通常のやり方は、利用者の膝を折り曲げて立たせ、横を向かせたい方向へ膝→上体の順に押すと、簡単に横を向かせることができます。
この時、つい忘れがちなのが、利用者のお尻の位置です。
側臥位介助では、介護者側は「横を向かせる介助」という認識が強いため、慣れてくると横を向かせて体位交換用のクッションを背中に当てて終わり、という介助が展開されやすくなってきます。
実際、自分自身の身体で試してみましょう。
布団の上に仰向けとなり、膝を立てます。
そのまま、その膝を横になりたい方向へ倒し、横になってみてください。
さて、お聞きします。
その姿勢でこれから2~3時間ぐっすり休めそうですか。
恐らく、ほとんどの方は「居心地が良くない気がする」と感じるはずです。
では、居心地良く休むために足りないものとは、一体何でしょう。そうです、それが『お尻の位置』なのです。
通常、人は横を向いて気持ちよく休む際は、『くの字』になっているはずです。
ところが、先に述べた介助を実践すると、利用者がくの字型になりません。つまり、利用者を無理な姿勢で長時間横向きにさせることになります。
では、利用者をくの字型の横向きにするためには、どのような介助をすればよいのでしょうか。
方法は、2つあります。
一つは、先のやり方で利用者を横向きにさせた後、利用者の骨盤を後ろへ引くというもの。
この時、力任せに引くのではなく、ベッドに接している方の腸骨部の下に手を入れ、介護者側へ引くようにすると利用者をくの字にさせることができます。
もう一つのやり方は、利用者の身体を斜めにしてから側臥位にするやり方です。
まず、利用者の膝を立て、その膝の下に手を入れ、もう片方の手を利用者の仙骨部下に入れ込みます。
この状態を作ってから、利用者の膝を上げたと同時に、利用者の仙骨部を自分側へ引っ張ります。すると、利用者の身体を斜めにすることができます。
後は、通常の側臥位介助をするだけ。
ただの側臥位だと、利用者の肩の部分が邪魔をするため『くの字体勢』ができないのですが、このように利用者の身体を斜めにすることで側臥位後の肩の位置が下がり、結果として『くの字体勢』を作ることができるわけです。
いかがでしたでしょうか。
今回は、上方移動介助と側臥位介助の2つに焦点を当ててみました。おむつ交換や移動介助など、ベッド上での介助は特に腰に負担がかかりやすいので、自分の身体を守るためにもコツを押さえる必要があります。
ここでご紹介したことが、皆様のお役に立つことができたのであれば、これ以上の嬉しいことはございません。
これからも、より良いラクな介助について一緒に考えていきましょう。